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「ここなら100年大丈夫ですか」——最近増えた八ヶ岳移住の相談に、世界地図から答える

  • 5月19日
  • 読了時間: 7分

「ここなら、これから100年大丈夫ですか」

半年前から、相談の最後にこの質問が増えた。最初は冗談かと思った。100年といえば、相談者本人もこの世にいない。けれど聞いている顔は真剣だ。

「子どもがいるんです。孫もできた。あの子たちが大人になったとき、どこに住んでいたら、暮らしが続いていると思いますか」

不動産鑑定士の仕事をしていて、この質問はかなり異例だ。普通は「いくらで売れますか」「値上がりしますか」を聞かれる。100年後の暮らしを聞かれることは、なかった。

けれど最近、この種の質問が珍しくなくなってきた。経営者、医師、IT技術者、子育て世代——立場はバラバラだ。共通しているのは、もう「値上がりするかどうか」では判断していないこと。

何かが、静かに変わり始めている。

私は八ヶ岳西麓——茅野市・原村・富士見町——を主フィールドにする不動産鑑定士・宅地建物取引士だ。この西麓で土地と暮らしを評価し、自社買取・再生・販売・仲介を行っている。

「100年大丈夫か」という問いに、誠実に答えるには、視点を一度地球規模まで広げないといけない。なぜなら、私たちが今ここで直面しているのは、たんなる引越し先選びではなく、「住める場所」と「住みにくくなる場所」の世界地図そのものが書き換えられている最中だからだ。

今回から7回にわたって、その地図を一緒に見ていきたい。1本目は世界スケール。日本という国は、世界の中でどう見えているのか。

気候難民2億人——世界の人が、すでに動き始めている

データを並べる。

気候変動を原因とする国内移住は、2050年までに世界で2億1,600万人にのぼる可能性がある——世界銀行の試算だ。2022年に気候難民は1億人を超え、紛争による難民の数を上回った。気温が1度上昇するごとに、移動を強いられる人は10億人増えるという分析もある。

大きすぎる数字に聞こえるかもしれない。けれど、足元では具体的に動きが始まっている。

米国国民の11%が地球温暖化の影響を避けるために移住を検討しており、75%が山火事などの気候リスクの高い地域で家を買うことにためらいを覚えている。米国本土の48州で、3,000万戸の家屋が山火事の危機にさらされている。フロリダではなくミネソタ州ダルースが「気候難民の安息地」と呼ばれ始めた。スウェーデンの北極圏に近い町が、中東からの難民を受け入れ始めた。

矢印の向きはひとつだ。「南から北へ」「低地から高地へ」

これが、気候200〜1000年波が描き出している大きな流れ。今この瞬間、地球上の人類が、住める場所を求めて静かに、けれど着実に動き始めている。

日本だけが持っている「標高を上げる」という選択肢

北米やヨーロッパで気候難民が「より北へ」しか動けないのに対し、日本には別の選択肢がある。

標高を上げる。

これは大陸の平らな国土を持つ国にはない、日本固有の選択肢だ。国土の約7割が森林、しかも山岳国土。標高差が大きいので、「気候が合わないなら、上に動く」ができる。

私が住んでいる八ヶ岳西麓では、10年前まで「標高1300mは定住には厳しい」が業界の常識だった。冬は氷点下二桁、水道凍結、雪。別荘地としては成立しても、定住適地ではないとされていた。

ところが今、その常識は崩れている。950m帯で熱帯夜が出る年が増え、1300m帯が「夏は涼しく、性能の高い家を建てれば冬も住める適地」として再評価されている。実際、私自身の自宅は標高1300m帯にあり、ホームデザインハラタという地元工務店の家で水抜きが要らない。北海道並みのUA値・C値の家が、長野県の地方工務店で建つ時代になった。

これは「気候変動の被害」ではない。気候200〜1000年波のうねりの中で、人類に最適な気候ニッチそのものが、緯度方向と同時に標高方向にも上方シフトしているということだ。

日本列島は、この標高シフトを国土の中で完結できる、世界でも稀な国だ。

世界から見ると、日本の地方は「驚くほど安い」

もうひとつ、外から日本を見て驚くのが価格だ。

「八ヶ岳西麓の中古別荘+農地100坪、500万円」——これを聞いて驚くのは東京の人だけじゃない。先日、シンガポールから来た知人にこの話をしたら、その場で「今すぐ見に行きたい」と言われた。シドニーやバンクーバーの郊外なら、同じ条件で軒並み数千万円。米国でも、気候ニッチに入る五大湖周辺やバーモントは、もう値上がりが始まっている。

日本は2025年の生活費ランキングで44位。先進国の中では比較的生活費が抑えられている。アメリカ(17位)、ドイツ(18位)、フランス(20位)、イギリス(21位)、オーストラリア(23位)など、欧米諸国の多くより日本の生活費は低い。

円安は通貨としては痛い。けれど生活コストとしては、巨大な緩衝材になっている。海外から日本の地方を見ると、土地・食・水・燃料が、信じられない安さで揃う場所、なのだ。

そして、土地と暮らしの基本コストが安いということは、外部依存度を低くしやすいということでもある。同じ年収で、東京なら家賃に消える金額を、地方では薪ストーブと畑と井戸に投資できる。これは縄文の分散社会の「低依存」軸そのものだ。

正直に書く、日本の弱点

煽る記事は書かないと決めているので、弱点も書く。

正直に言うと、日本という国そのものに「100年大丈夫」と太鼓判は押せない。財政、通貨、人口減少、地政学リスク。楽観できる材料は少ない。

ただ、それは世界中どの国も同じなのだ。米ドルも揺らぎ、ユーロも揺らぐ。中国もインドも、内部に深刻な構造問題を抱えている。気候変動・基軸通貨動揺・食料安保(ダリオ100年波)——どの国も逃げ切れない。「絶対安全な国」はもう、地球上に存在しない。

その前提で「相対的にどこがマシか」を考えると、日本という国は、世界の中ではかなり粘れる側に立っている。水と森と標高差があり、食料生産の基盤が残り、治安も医療も社会保障の枠組みも、まだ機能している。

それから、人口減少を移住先を選ぶ視点から見ると、「土地が動く・空く」というプラスにも反転する。2025〜2035年は団塊世代の相続ピーク。日本中で、これまで動かなかった土地が動き出す10年に入っている。これは、選ぶ側にとっては大きなチャンスだ。

弱点は弱点として認めつつ、答えは外に逃げることではない。日本の中で、賢く動くことになる。

「日本にいるだけ」では足りない——どこに住むかが決定的

ここまで読むと、「じゃあ日本にいれば安心」と思うかもしれない。違う。

同じ日本の中でも、東京湾岸の海抜0m地帯と、標高1100m・四方を山に囲まれた盆地では、これからの100年で行く先がまったく違う。日本という国に住んでいるだけでは足りない。日本のどこに住んでいるかが、決定的に重要になる時代に入っている。

その「どこ」を見極める目線を、私は普段、5つの軸で持っている。縄文の分散社会の構造だ。

  • 分散——食・水・燃料・人間関係が一極に依存していないこと。たとえば八ヶ岳西麓では、井戸と上水道の併用、薪と灯油の併用が普通にある。片方が止まっても暮らしが続く。

  • 自給——基本は自家で確保できること。私の周囲では、畑を持ち、年間の野菜の半分以上を自給している家が珍しくない。

  • 低依存——貨幣・電力・流通・行政への依存度を、意図的に低く保つこと。固定費が低いほど、外の世界が揺れても暮らしは揺れない。

  • 地縁——分散していながら、水利・森・道・祭事で緩やかに結ばれていること。区加入・財産区・道普請。手間はあるが、その手間が暮らしの安全弁になる。

  • 可逆——縮小・撤退・転用が可能で、固定化していないこと。家を建てたら一生それ、ではなく、暮らしの形を柔軟に変えられる土地構造であること。

「集約・集中・依存・固定化」の反対にある暮らし方。これを世界スケールで見ると、こんな問いに翻訳できる。

その土地は、これから100年、外部依存しすぎずに暮らしが続くか?

エネルギーが止まっても、輸入が滞っても、通貨が揺れても、その土地は人を養えるか。水と食と燃料の基本が、土地そのものから取れるか。

このフィルターで日本国内を見直すと、選ばれる地域と選ばれにくい地域がはっきり分かれてくる。

次回:日本のどこへ動くか

次回は、日本の中でどこへ動くか。

ふるさと回帰支援センターの2025年の移住相談件数は73,003件で、5年連続で過去最高を更新している。何が起きているのか。物価高と分散の地図で見ていく。

私が暮らす八ヶ岳西麓は、四方を高山(八ヶ岳・中央アルプス・北アルプス・南アルプス)に囲まれた盆地で、新幹線・リニア大動脈ルートからも外れている。「発展しなかった地域」だ。

けれど世界スケールで見直すと、見え方が変わる。「発展しなかった」は、「壊されなかった」だ。区・畑・山林の三層が機能したまま残った理由が、まさにここにある。

「ここなら100年大丈夫ですか」と聞かれたら、私は今、こう答える。「ここだから、100年の話ができるんです」と。

物件のことでも、暮らしの設計のことでも、相談があればいつでも声をかけてほしい。一緒に考えていけたら、と思う。

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