赤坂の1㎡で、蓼科の森が500坪——2026年の地価調査、八ヶ岳西麓はこの10年で初めてのプラス

9月16日、今年の地価調査(基準地価)が発表されました。7月1日時点の土地の値段を、都道府県が毎年調べて公表するものです。
ニュースの見出しは、にぎやかでした。全国の地価は5年続けて上昇。長野県では、白馬駅前の商業地が+35.6%で上昇率全国一。軽井沢は商業地の価格で県内トップ。
その同じ発表のなかで、茅野市・原村・富士見町の住宅地は、平均で+0.4%でした。
見出しにはならない数字です。けれど、この3町村の住宅地が平均でプラスになったのは、私たちが追いはじめた2016年以降で初めてのことでした。
今回は、今年のニュースと、八ヶ岳西麓の小さな+0.4%を、並べて眺めてみます。
この記事の要点
茅野市・原村・富士見町の住宅地(地価調査9地点)は、平均+0.4%。この10年で初めてのプラス
上がったのは人が暮らす住宅地。蓼科の別荘地は横ばい
白馬・軽井沢のような外からの需要で上がる土地とは、値段を決めている力が違う。八ヶ岳西麓は今年も「住みたい人の数」で値段が決まっている
1.今年のニュースを、ざっと
全国は、5年連続の上昇。 全用途の平均で+1.5%、住宅地は+1.0%、商業地は+2.9%でした。上昇を引っぱったのは東京圏と大阪圏です。一方で、札幌・仙台・広島・福岡の地方4市は、伸び幅が前の年より縮みました。建築費が上がりすぎて、家を建てる人が値段の安い郊外に目を向けはじめた、という解説が多く見られます。人口が減っている地域では下落が続き、「二極化」という言葉もよく使われました。
長野県は、リゾートが引っぱった年でした。 白馬駅前の商業地が+35.6%で全国一位、白馬村役場近くの住宅地が全国二位。軽井沢は商業地の価格で県内一位になりました。
面白かったのは、白馬について専門家が「村内のアパートの空室率が低い。実需の高まりを感じる」とコメントしていたことです。観光地の地価というと、別荘や投資の話になりがちです。けれど白馬では、住まいそのものが足りなくなっています。地元紙は「家賃は東京並み」「観光客が急増する一方で住まいの確保が困難に」と伝えていました。3月の地価公示でも白馬の住宅地は+33.0%で上昇率全国一で、海外から来た人が住むための家を買ったり、ペンションを開いたりする動きが背景にあると解説されています。
外から来た需要が、ホテルや別荘だけでなく、そこで働き暮らす人の家賃まで押し上げている。白馬の+35%は、そういう数字です。
もうひとつ、首都圏の分析で目にとまった話があります。都心から遠いか近いかではなく、「その町に、暮らしと仕事の拠点があるかどうか」で、上がる郊外と下がる郊外が分かれている、というものです。これは後で、八ヶ岳西麓の話にもつながってきます。
2.八ヶ岳西麓は+0.4%。この10年で初めてのプラス
では、八ヶ岳西麓です。先に、この数字が何地点でできているかを確かめておきます。
茅野市:5地点
富士見町:3地点
原村:1地点
あわせて9地点。原村は1地点しかありません。3月に発表される国の地価公示にいたっては、原村の住宅地に地点が一つもありません。「+0.4%」は、この9地点の平均です。
この9地点の変動率の平均を、年ごとに並べるとこうなります。
2016年:−2.1%
2018年:−1.5%
2020年:−1.9%
2022年:−0.9%
2024年:−0.8%
2025年:−0.4%
2026年:+0.4%
2021年ごろまでは、毎年1.5〜2%ずつ下がっていました。コロナ移住の波が来たあたりで下げ幅が半分になり、昨年は−0.4%。そして今年、はじめてゼロを越えました。
全国の住宅地(+1.0%)には届きません。急に上がったわけでもありません。10年かけて下がり方がゆっくり小さくなり、今年ようやく止まった。 線で見ると、そういう形です。
3.9地点を、ひとつずつ歩いてみる
平均だけでは中身が見えないので、地点ごとに見ます。「まわりの様子」は、県の鑑定士が評価書に書いた言葉をそのまま引いています。
原村の住宅地(中規模一般住宅が建ち並ぶ分譲住宅地域):+1.3%
茅野市の住宅地A(一般住宅及び農家住宅が混在する住宅地域):+1.2%
茅野市の住宅地B(中規模一般住宅が多い高台の閑静な住宅地域):+1.1%
富士見町の住宅地A(中規模一般住宅が建ち並びつつある区画整然とした住宅地域):+0.8%
茅野市の住宅地C(中規模の一般住宅が建ち並ぶ区画整然とした住宅地域):+0.5%
茅野市・蓼科の別荘地(戸建別荘、保養所等が建ち並ぶ別荘地域):±0.0%
富士見町の住宅地B(中規模一般住宅が建ち並ぶ分譲住宅地域):±0.0%
富士見町の住宅地C(国道沿いに一般住宅、農家住宅が建ち並ぶ住宅地域):−0.6%
茅野市の住宅地D(中規模一般住宅が建ち並ぶ高台の閑静な分譲住宅地域):−0.7%
上がった地点が5つ、横ばいが2つ、下がった地点が2つ。
上がったのは、人が住んで、毎日暮らしている住宅地でした。農家の家と一般の家が混じる住宅地。区画の整った新しめの住宅地。住む場所として選ばれている土地が、少しずつ値を戻しています。
いっぽう、蓼科の別荘地は横ばいです。10年前は1㎡あたり5,280円。そこから毎年少しずつ下がり、今年は4,570円で止まりました。軽井沢や白馬では別荘地が1年で1割以上上がっていますが、八ヶ岳西麓の別荘地は、その流れの外にいます。
4.ちょっと面白い数字を、四つ
地価調査の表を眺めていると、ときどき思わず手が止まる数字があります。今年見つけたものを四つ。
① 赤坂の1㎡で、蓼科の森が約500坪
今年、全国でいちばん高い住宅地は東京・赤坂で、1㎡あたり750万円でした。いっぽう、茅野市の地価調査でいちばん安い住宅地は、蓼科の別荘地の4,570円。
割り算すると、赤坂の1㎡は、蓼科の森のおよそ1,640㎡、約500坪にあたります。畳1枚にも満たない広さと、テニスコート6面ぶんほどの森が、同じ値段です。どちらが得という話ではなく、土地の値段が、どれだけ「場所」で決まっているかがよくわかる数字です。
② 同じ「農家住宅の地域」でも、白馬は+31%、茅野は+1.2%
白馬村にも、鑑定士が「古くからの農家住宅地域」と書いた地点があります。今年の変動率は+31.1%。茅野市の「一般住宅及び農家住宅が混在する住宅地域」は+1.2%でした。
書かれている土地の姿は、よく似ています。違うのは、その土地に値段をつけている人です。白馬では観光と、観光で働く人の住まいの需要。八ヶ岳西麓では、そこで暮らしたい人。同じような農家の集落でも、どこから需要が来るかで、上がり幅はまるで違ってきます。
③ 富士見町では、畑の広がる側が、駅寄りの3倍
富士見町の住宅地3地点のうち、いちばん高いのは畑とゆるやかな住宅地が広がる側の地点で24,000円。いちばん安いのは駅寄りの国道沿いの地点で8,100円です。ふつうは駅に近いほど高くなりそうなものですが、富士見町では畑の広がる側のほうが3倍高い。どこが「暮らしやすい場所」とされているかが、値段にそのまま出ています。
④ 原村の1地点は、10年前の値をわずかに越えた
原村にたった一つある地点(標高1,000mほどの分譲住宅地)は、2016年に1㎡あたり15,200円でした。そこから少しずつ下がって2020〜2021年に14,800円で底を打ち、5年かけて元の15,200円へ戻り、今年は15,400円。
10年かけて、200円だけ上に出ました。値上がりと呼ぶほどの幅ではありません。でも、動かない土地が動かないまま持ちこたえてきたことが、この一本の線によく出ています。
5.白馬と八ヶ岳西麓、何が違うのか
比べるために追っている14市町村の住宅地を並べます。「今年」は地点の平均、「10年」は2016年と2026年の両方に値がある地点の変化率の中央値です。
白馬村|観光と、そこで働く人の住まい:3地点/今年+25.6%/10年+63%
野沢温泉村|観光:1地点/今年+21.8%/10年+69%
軽井沢町|別荘と、外からの資本:6地点/今年+14.3%/10年+79%
倶知安町(ニセコ)|海外からの観光と資本:4地点/今年+8.3%/10年+235%
安曇野市|松本への通勤:10地点/今年+2.2%/10年+4%
松本市|県内の中心都市としての仕事:26地点/今年+1.4%/10年+8%
原村|そこで暮らしたい人:1地点/今年+1.3%/10年+1%
茅野市|そこで暮らしたい人:5地点/今年+0.4%/10年−13%
富士見町|そこで暮らしたい人:3地点/今年+0.1%/10年−12%
諏訪市|地元で働く人:4地点/今年±0.0%/10年−7%
岡谷市|地元で働く人:4地点/今年−0.3%/10年−11%
下諏訪町|地元で働く人:3地点/今年−0.3%/10年−11%
北杜市|八ヶ岳東麓(駅前と山あいで分かれる):21地点/今年−0.3%/10年−14%
八幡平市(安比)|観光:9地点/今年−1.0%/10年−16%
※1地点・3地点の町は、1地点の動きがそのまま平均になります。方向感として読んでください。
同じ「山の近くの土地」でも、動き方はまるで違います。
外から人やお金が入ってくる土地は、この1年でも1〜3割上がりました。通勤先のある安曇野・松本は、年1〜2%ずつ、静かに高いところで安定しています。そして、そこで暮らしたい人の数だけで値段が決まる八ヶ岳西麓は、10年下がり続けたあと、今年ようやく横ばいの少し上に出ました。
1章で触れた「上がる郊外と下がる郊外」の話を思い出すと、わかりやすいかもしれません。値段を押し上げるのは、距離ではなく「そこに人を呼ぶ力が何か」です。白馬は観光、安曇野は松本の仕事。八ヶ岳西麓にあるのは、ここで暮らしたいという、一人ひとりの理由だけです。
どれが良い悪いではありません。外からの力に値段を預けている土地は、上がるときは速く、その力が引けば同じ速さで動きます。八ヶ岳西麓の値段は、住みたい人の数で決まる。だから動きは小さく、ゆっくりです。
6.値段を決めている力は、変わったか
この定点観測でいちばん見たいのは、じつはここです。もし八ヶ岳西麓に外からの資本が入りはじめたら、地価の動き方そのものが変わるはずだからです。
今年の答えは、変わっていない、です。+0.4%は1つの地点が跳ねた数字ではなく、9地点のうち5地点が0.5〜1.3%ずつ上がった、薄く広い動きでした。ほかの土地では、ニセコ(倶知安)の住宅地の伸びが昨年の+12.7%から+8.3%へ鈍り、白馬は+14.7%から+25.6%へ速まっています。この二つは来年も見ていきます。
7.取引のほうは、どうだったか
実際の土地の売買(宅地)も、少しだけ見ておきます。
2025年に売買された土地は、茅野市95件、富士見町52件、原村32件。いずれも例年並みで、急に増えたわけではありません。
茅野市では、動いた土地のおよそ7割が標高の高い側でした。2025年はその高い側で広い土地がよく動き、面積の中央値が前の年のほぼ2倍(約800㎡)になっています。土地は広いほど1㎡あたりが安くなるので、この年の単価は下がって見えます。値下がりではなく、動いた土地の大きさが変わっただけです。
件数は落ち着いたまま、地価調査の地点が少しずつ値を戻している。慌てて買われているのではなく、住む人が住む分だけ、淡々と動いている。そういう姿です。
ここで、土地の売り買いに毎日立ち会っている立場から、ひとつだけ書いておきます。
値上がりを見込んだ売り買い、つまり投機が入って値段が急に上がる局面では、じつは成約までいく話が減りやすくなります。値段が先に走ると、売る側は「もっと上がるかもしれない」と待ち、買う側は「高すぎる」と様子を見る。話がなかなかまとまらないのです。
住むために買う人が中心の土地では、そうはなりません。暮らしに必要な広さと値段が見えていれば、話はまとまり、取引がきちんと成立します。不動産屋としては、実需の市場のほうが、商売としてもずっと助かります。派手な数字が出る土地より、静かに取引が成立していく土地のほうが、ここで暮らす人にとっても、私たちにとっても、健やかな市場だと思っています。
8.9月はじめの読みと、答え合わせ
じつは今年の発表の前、9月のはじめに、取引の動きから今年の地価調査を予測していました。八ヶ岳西麓の住宅地9地点について、読みは「平均+0.5%」。結果は+0.4%でした。
ほぼ当たりです。ただ、ひとつ書いておくことがあります。その予測には、建築費や物価の上昇分として、全地点に一律+0.5ポイントを上乗せしていました。取引だけから読んだ部分は「ほぼ±0」で、上に出た分は物価の上乗せとほぼ同じ幅です。
だから今年の+0.4%は、「土地そのものの価値が上がった」と読むより、「下げ止まったところに、物価の上昇がうっすら乗った」と読むほうが、実態に近いと考えています。
9.まとめ——にぎやかなニュースの外側で
今年の地価調査で、八ヶ岳西麓について言えるのは次のことです。
3町村の住宅地(9地点)は平均+0.4%。2016年以降で初めてのプラス
急に上がったのではなく、10年かけて下げ幅が縮み、今年ようやく止まった
上がったのは人が暮らす住宅地。別荘地は横ばい
白馬や軽井沢とは、値段を決めている力が違う。その力は今年も変わっていない
ここは、値上がりを見込んで買う土地ではありません。値段を押し上げる外からの力が、もともと働いていないからです。
そのかわり、急に崩れることもありません。住みたい人の数だけで値段が決まる土地は、何年もかけて下がり、何年もかけて止まる。そういう速さで動きます。
そして、この9地点は八ヶ岳西麓のごく一部です。集落の中の畑、山際の田、森に接した土地には、そもそも公的な地点がありません。そういう土地の値段は、今年も現地で見て決めることになります。
にぎやかなニュースの外側で、静かに線が一本、ゼロを越えた。今年の定点観測は、それを書き留めておく回でした。
これは煽る話ではないと思います。見えた人にだけ伝われば、十分です。
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※本記事の地価データは地価調査(各年7月1日時点)のみで集計しています。地価公示とは混ぜていません。
※出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価調査/不動産取引価格情報)。変動率は各地点の対前年変動率の単純平均、10年の変化は2016年と2026年の両方に価格がある地点の中央値です。全国の数字・白馬のコメントは各社の報道によります。









