白馬は10年で価格が跳ね、茅野市は静かに沈んだ——数字で読む八ヶ岳西麓の不動産
- 6月5日
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国土交通省の地価データを並べていて、一つ奇妙な対比に気づきました。
同じ長野県の人気エリアなのに、白馬村の住宅地はこの直近で前年比+11%、軽井沢町は+10%、野沢温泉村にいたっては+16%と跳ね上がっている。ところが八ヶ岳西麓の茅野市は10年かけて約-8%、富士見町は約-14%。どちらも「移住で人気」と語られる土地なのに、価格の動きは正反対です。
この差は何なのか。そして、買う側にとってどちらが幸せなのか。
この記事は、八ヶ岳西麓(茅野市・原村・富士見町)で家や土地を探している方が抱く疑問——市場の動向、空き家が増える理由、茅野市・原村・富士見町の相場、別荘や田舎暮らし物件の探し方——を、すべてこの「価格の謎」を解きほぐす形で順番に答えていきます。書いているのは、この三町村だけを専門に、山林・農地・空き家・別荘を自社で買い取り再生している不動産鑑定士です。
数字を一段ずつ降りていきましょう。世界の大きな流れ → 八ヶ岳という場所の事情 → そして個別の物件、という順に。
そもそも、なぜ人は今こういう土地を選ぶのか
価格の謎に入る前に、まず一番大きな流れから。なぜ「自然のある土地」を求める人が増えているのか、という話です。
リモートワークが定着し、収入は場所に縛られなくなりました。一方で、世界に目を向ければ食料やエネルギーの自給への関心が高まり、「暮らしの基盤は自分の手元に置いておきたい」という感覚が静かに広がっています。デジタルで稼ぎ、生活の土台はアナログ(土・水・森・日射)に置く——この二層構造が、若い世代の移住相談でも前提になりつつあります。
長野県への移住希望者には、こんな声が並びます。家庭菜園をやってみたい。健康的な食や自然に関心がある。持続可能な暮らしを探求したい。「家を買う」というより「暮らしの構造ごと選ぶ」発想です。
この大きな流れが、八ヶ岳西麓と、白馬・軽井沢のような土地に、まったく違う形で作用している——それが冒頭の価格の謎の正体です。順に見ていきます。
八ヶ岳西麓という場所の、ちょっと変わった事情
価格の謎の答え:投資マネーが来る土地と、暮らしで値段が決まる土地
Q. 八ヶ岳周辺の不動産市場の動向は? A. 移住・二地域居住の需要は底堅い一方、価格は投資マネーで乱高下せず、ゆるやかな横ばいで推移しています。標高帯・道路付け・地縁集落への入りやすさで価格が大きく分かれるのが特徴です。
冒頭の対比に戻ります。白馬や軽井沢、野沢温泉が二桁で高騰しているのは、インバウンドや投資マネーが集中しているからです。スキーリゾートやブランド別荘地に、世界中の資本が「値上がりする資産」として入ってくる。だから価格が跳ねる。
八ヶ岳西麓には、その波が来ていません。茅野市の住宅地公示は2016年の約4.5万円/㎡から2025年に約4.1万円/㎡へ、富士見町は約2.3万円/㎡から約2.0万円/㎡へ。直近の前年比でも-0.7%前後と、ほぼ動いていません(いずれも国交省地価公示データより算出)。
ここで見方を反転させてみてください。価格が静かだということは、この土地の値段が「投資家の思惑」ではなく「実際に暮らす人の価値」で決まっているということです。乱高下しない。資本に追い立てられない。暮らしの基盤として土地を持ちたい人にとっては、白馬の+11%より、茅野の横ばいのほうがずっと安心できる数字なのです。
冒頭の謎は、こう解けます。白馬は「資産として買われる土地」、八ヶ岳西麓は「暮らすために選ばれる土地」。 価格の動きの違いは、土地の性格の違いだったわけです。
では、その「暮らすための家」がなぜ余っているのか
Q. 八ヶ岳エリアで空き家が増えている理由は? A. 長野県の空き家率は20.06%で全国6位(2023年・住宅土地統計調査)。別荘・二地域居住物件が統計上カウントされること、相続と高齢化、山間集落の老朽化が主因です。
暮らすために選ばれる土地のはずなのに、長野県の空き家率は全国平均13.84%を大きく上回る20.06%、全国6位です。一見矛盾するこの事実にも、ちゃんと理由があります。
理由は三つ。ひとつは別荘・二地域居住の物件が統計上「空き家」に含まれること。誰も困っていない、夏だけ使う別荘も数字に乗っています。ふたつ目は相続と高齢化。所有者が施設や子世帯へ移り、家が残る。みっつ目は山間集落の老朽化住宅で、長野県では使用目的のない「放置空き家」も5年で10%増の約9万2千戸に達しています。
ここでもう一度、見方を反転させます。空き家が多いということは、「適切に手を入れれば暮らしが成立する家が、まだ評価されないまま市場に眠っている」ということでもある。資本が値段を吊り上げていない土地に、手つかずの選択肢がたくさん残っている。買う側から見れば、これはむしろ好機です。
謎が解けたところで、では実際にいくらで手に入るのか。第三層、個別の数字に降りていきます。
では、実際の物件はいくらで手に入るのか
ここからは国土交通省の不動産取引価格データ(2020〜2025年の実際の成約)を集計した、生の数字です。広告価格ではなく「実際に売れた値段」なので、予算計画の土台になります。
茅野市——利便と自然の両取りができる中心地
Q. 茅野市の中古物件・中古住宅の価格相場は?/中古住宅を買うメリットは? A. 実取引の中央値は土地+建物で約1,350万円(中心帯650万〜2,480万円)。JR茅野駅を中心に医療・商業・学校が揃い、車15分で八ヶ岳の自然に入れる「両取り」の暮らしやすさが最大のメリットです。
茅野市の中古住宅(土地+建物)の実際の成約は、中央値で約1,350万円、中心となる価格帯は650万〜2,480万円(n=302件)。土地のみなら中央値約600万円です。
ポータルサイトの売り出し広告では2,300万円台の物件が目立ちますが、実際の成約はそれより低い。「広告で2,300万円台、実際は1,300万〜1,800万円前後」を目安に見ておくと予算がぶれません。
茅野市が選ばれる理由は明快です。JR中央線「茅野駅」で都心と特急でつながり、諏訪中央病院・スーパー・小中学校が徒歩〜車数分圏。それでいて車で15分走れば八ヶ岳の懐に入る。新築より割安に、土地の広い家で、家庭菜園や薪ストーブのある暮らしを無理なく始められる——移住の入口として最もハードルが低いエリアです。
買取で市内をまわっていて感じるのは、同じ「茅野市」でも市街地と山際で空気がまるで違うことです。駅周辺は通年の生活が回る一方、北山や蓼科寄りに上がると、冬の朝に水道管の凍結防止帯が効いているか、薪が確保できるかが暮らしの質を左右する。価格の幅は、この「市内のどこに立つか」をそのまま映しています。
原村——土地が広く、環境で評価される別荘地
Q. 原村中古物件の相場は?/別荘を探すならどこがいい?/中古住宅購入のポイントは? A. 土地+建物の実取引中央値は約1,300万円(中心帯760万〜1,900万円)。「三井の森」「八ヶ岳中央高原(四季の森)」が定番。標高・道路・水道・区/畑の4点確認が購入のポイントです。
原村の中古住宅(土地+建物)の実取引は中央値約1,300万円、中心帯760万〜1,900万円(n=70件)。注目は土地のみの中央値が約710万円と、茅野市(約600万円)を上回ること。これは原村の土地が「広さと環境の良さ」で評価されている証拠です。
実際の売り出しでも、三井の森すずらん平で西側に眺望のある2LDK中古別荘が1,380万円、四季の森エリアで2LDK+ロフトが2,500万円前後といった事例が出ています。別荘を探すなら、標高が高く日照に恵まれ、たてしな自由農園や日帰り温泉も近い「三井の森」「八ヶ岳中央高原」が定番です。
原村で物件を見るとき、私が標高や価格より先に確認するのは斜面の向きです。同じ標高でも、南や東に開けた土地は冬でも午後まで陽が回り、室温も雪解けもまるで違う。北側に傾いた区画は夏は涼しくても、冬の暮らしの負担が大きくなる。広告の「標高1,100m」という一行からは見えない差が、現地に立つと足元の雪の残り方で一目でわかります。
富士見町——予算を抑えて始めたい人の選択肢
Q. 富士見町の相場は? A. 土地+建物の実取引中央値は約850万円(中心帯480万〜1,600万円)、土地のみは約290万円と、三町村で最も総額を抑えやすいエリアです。
富士見町は三町村で最も手が届きやすい。土地+建物の成約は中央値約850万円(480万〜1,600万円)、土地のみは中央値約290万円(n=115件)。中央道・諏訪南インターに近く、八ヶ岳南西麓の日当たりの良い土地が多い。「予算を抑えて田舎暮らしを始めたい」「まず土地を確保して将来建てたい」人に向きます。価格が抑えめな分、建物状態とインフラの見極めがより重要になります。
同じ町でも価格が割れる理由——道路と標高の話
Q. 中古物件の相場は道路や標高でどう変わる? A. 同じ広さ・築年でも、標高帯と道路付けで数百万円変わります。安い物件には「安い理由(暮らしのコストや手間)」があり、それを読み解けるかが鍵です。
ここまでの数字を見て「同じ町なのに幅が広いな」と感じたはずです。その幅の正体が、道路と標高です。
標高で変わる例。 茅野市・原村とも、標高1,000〜1,100mの別荘地は土地が広くても総額1,000万〜1,400万円台に収まります。涼しさと眺望という価値の裏で、凍結対策・除雪・灯油や薪のコストが価格に織り込まれているからです。逆に標高800m前後の市街地寄り(玉川など)は通年の使いやすさが価値となり、同じ建物面積でも2,000万円台後半まで上がります。
道路で変わる例。 町道に面し除雪が入る住宅地は通年で暮らせて評価が安定。私道や別荘地内道路は冬季の除雪を自分か管理組合で担う必要があり、その不安が価格に反映されます。
大切なのは「標高が高い=安い」と単純に喜ばないこと。安いのには理由がある。その理由=暮らしのコストや手間が、自分の暮らし方に合うかを読むのが、八ヶ岳西麓の物件を見る正しい目線です。山林に至っては数万〜数十万円の取引も多く、薪や森を含めた「暮らしの素材」として捉え直せます。
数字の地図ができたら、次はどう動くか
数字の地図が頭に入ったところで、実際の動き方です。
Q. 八ヶ岳周辺で田舎暮らし向けの物件を探す方法は?/空き家を買うおすすめの方法は? A. (1)空き家バンク、(2)地域特化の不動産会社、(3)大手ポータルの3ルート併用が漏れがありません。空き家は「物件価格+再生費用」の総額と「暮らしが成立する土地か」で判断します。
探し方は3ルートの併用が鉄則です。空き家バンク(長野県「楽園信州空き家バンク」は畑付き・古民家風などで検索可)で掘り出し物を、地域特化の不動産会社でポータルに出ない物件と「暮らしが成立するか」の情報を、大手ポータル(SUUMO・アットホーム等)で相場感を。
特に空き家は、安さに飛びつくと失敗します。築古ほどリフォーム費がかかるため、「物件価格+再生費用」の総額で比較すること。そして屋根・水回り・基礎・接道・浄化槽、さらに畑・山林・水利・区との関係まで確認すること。ここが田舎の空き家の本当の価値を決めます。
Q. 茅野市の別荘購入でおすすめの不動産会社は?/中古別荘を購入するには? A. 特定一社を断定はしませんが、「三町村に特化し、農地・水利・区の事情まで読める会社」を選ぶことを強くおすすめします。別荘は標高帯を絞る→管理・インフラ確認→冬の使い方を前提に判断、の順で。
最後に、よく聞かれる「どこの会社がいいか」について。特定の一社を「おすすめ」と断じるのは公平ではありません。ただ、ここまで読んでいただければ理由はわかるはずです。八ヶ岳西麓の物件は、価格表だけでは「暮らしが成立するか」がわからない。標高・道路・水道・地縁を現地で読み、必要なら農地転用や境界確定まで一体で進められる相手——つまりこの三町村に特化し、土地の事情を読める会社を選ぶことが、購入後の「想定と違った」を防ぎます。
別荘購入の手順も同じ発想です。エリアと標高帯を絞り、別荘地の管理費・水道(上水か地下水か)・冬季除雪を確認し、「夏だけ使うのか、二地域居住で通年使うのか」を決めてから物件を選ぶ。順序を守れば失敗しにくくなります。
最後にもう一つ。この土地が長く続くかどうかは、価格や設備より「地縁との距離感」で決まります。八ヶ岳西麓の集落では、除雪も水利も、誰か一人がすべてを背負うのではなく、みんなで薄く役を分け合うことで成り立ってきました。移住者がその全部を引き受ける必要はありません。一役だけ薄く担えればいい。区の付き合いを「面倒」ではなく「冬を越すための、薄く広い安全網」と感じられる方には、この土地は応えてくれます。逆に、地域とは関わらず自分の敷地だけで完結したいという方には、もっと向いた場所があるはずです。
まとめ:価格の謎が教えてくれること
冒頭の謎に、最後にもう一度戻ります。白馬+11%、軽井沢+10%、茅野-8%。この差は、土地の優劣ではありませんでした。資本に買われる土地か、暮らしで選ばれる土地かという、性格の違いです。
八ヶ岳西麓の中古住宅の実取引中央値は、茅野市 約1,350万円、原村 約1,300万円、富士見町 約850万円。価格は10年横ばいで、投資マネーの乱高下とは無縁。空き家は多いけれど、それは「暮らしが成立する家がまだ評価されずに眠っている」ことの裏返し。
派手な値上がりはありません。けれど、畑・水・森・地縁を含めて「自分の暮らしが成立する土地」を、落ち着いた価格で、自分の手で選べる。それが、数字の静けさが教えてくれる八ヶ岳西麓の本当の価値です。
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本記事の価格相場は、国土交通省「不動産情報ライブラリ」の不動産取引価格情報および地価公示・地価調査データ(2016〜2025年)から、茅野市・原村・富士見町の実データを集計したものです。掲載の売り出し事例は各物件ポータルの公開情報に基づきます。実際の物件価格は個別条件により異なります。



