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原村の中古住宅は相場で買えない|鑑定士が教える5つの値踏み指標

  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

原村で中古住宅を探すと、ほとんどの人があるところでつまずく。相場が分からないのだ。

都市なら「この駅・この築年数なら坪いくら」と市場が教えてくれる。ところが原村には、その手がかりになる公的な地価データが、ほとんど存在しない。国が原村に置いている地価調査地点は、村全体でたった1つ。毎年3月の地価公示にいたっては、原村を対象にした鑑定地点が見当たらない。隣の茅野市や北杜市、軽井沢が数十地点ずつ抱えているのと比べると、際立っている。

不動産鑑定士として土地を評価してきた立場から言うと、これは原村の弱点ではない。むしろ、買い方そのものを変えるよう迫ってくる、原村の本質だ。

なぜ原村には公的な値段の目安がないのか

国は、土地の値段が動く場所、取引が活発な場所に優先して評価地点を置く。動く場所だからこそ、毎年測り直す意味がある。逆に評価地点が置かれていないのは、「ここはわざわざ毎年測り直すほど土地が動いていない」と国が判断している、ということだ。

原村にある唯一の地価調査地点(標高997mのエコーライン帯の分譲住宅地)は、2016年が15,200円、2025年も15,200円。10年かけてほぼ同じ場所に戻ってきている。原村の土地取引は年に50件ほどで、近隣の市町より飛び抜けて少ない。

中古住宅を買う人にとって、これは深刻だ。比較できる事例が薄く、公的な地価データも1地点しかない。価格表で買う、という都市の買い方が、ここでは原理的に使えない。

なぜ取引が少ないのか——手放されない土地

なぜ取引が少なく、データが薄いのか。人が土地を手放さないからだ。

代々その土地に暮らし、区に入り、畑を持ち、山を持つ家が、土地を手放さない。だから市場に出てくる土地が少なく、取引が少なく、地価も動かない。国の鑑定の網から外れているのは、原村が「忘れられた田舎」だからではない。手放されない土地の集まりだからだ。動かないから希少、という逆説が、原村にはいちばん濃く現れている。

ここで買い方が反転する。相場がないなら、相場の代わりに何を見ればいいのか。鑑定士が事例の薄い土地を評価するときにやることと、まったく同じだ。点で足りないデータを、現地で読む。 区・畑・山林・水・標高は、原村では「いい暮らしの条件」である前に、国が値段をつけていない土地の、値段の根拠そのものになる。

相場の代わりに読む、5つの値踏み指標

公的データが埋めてくれない部分を、買い手が自分で読むための手順だ。優先順位の高い順に挙げる。

1. 区に入れるか——「手放されない理由」を確かめる

原村の地価が動かない最大の理由は、区に入って暮らす家が土地を手放さないことだった。だから区は、原村では最初に確かめる指標になる。その物件が属する区の加入条件・区費・役の回り方を、買う前に確認する。ゴミ・水利・冬の除雪・祭りといった生活実務の多くが区を通じて回っている。最近の20〜40代の移住検討者は「区加入前提」を条件に挙げる人が増えている。負担ではなく、地価を動かさずに土地を守ってきた仕組みそのものに入れるか、という話だ。

2. 畑・庭がついているか——動いた土地の正体

原村で動く土地の広さの中央値は1,000㎡、300坪を超える。㎡単価の中央値は7,100円ほどで、300坪でも700万円程度。動いているのは駅前の小さな区画ではなく、畑や庭をつけられる広い土地だ。この数字が示すのは、原村で価値を持つのは建物の坪数ではなく、食べるものを自分でつくれる余地だということ。中古住宅でも、建物だけでなくこの余地を値踏みする。

3. 森・日射・風——直せないものを、現地で読む

原村の中古住宅は、森の中の物件が多い。これが、数字にはいちばん出にくく、現地でしか読めない価値だ。

実際に内見すると分かる。リビングの窓いっぱいに森が広がり、朝は鳥の声で目が覚める。その森を眺めながら、一日中ずっと過ごしていられる。こういう物件が、原村には普通にある。

鑑定の事例比較法では、この価値は拾えない。坪単価にも築年数にも表れないからだ。だが、建物は直せても、窓の外の森と、そこに差し込む日射と、冬の風の通り方は、後から作れない。標高900〜1500m帯のこうした環境差は、人工的に再現できない。相場が教えてくれないこの差こそ、現地に立って自分の目で値踏みすべき、いちばん大きな根拠になる。 内見では建物の状態だけでなく、窓の外に何が見えるか、そこにどれだけ居続けられるかを、時間をかけて確かめてほしい。

4. 上下水道の方式——自立度を価格に織り込む

原村の住宅地では本管が来ておらず、浄化槽・井戸という物件も多い。水質・水量・維持コストを事前に把握する。これは「安いから」という減点項目ではなく、インフラに依存しない自立した生活基盤という加点項目として読む。相場がないぶん、ここを正しく評価できるかで実質的な値打ちが変わる。

5. 山林・排水・境界——後から効いてくる土台

広い土地ほど、隣接する山林の状態、雨水・排水の流れ、境界の確定状況が暮らしに直結する。曖昧なまま買うと、後から行政手続きや近隣調整が必要になる。事例の薄い土地ほど、この足元を自分で確かめておく価値が高い。

動かない数字の下で、自分の目で値踏みする

原村は、観光や投機の資金ではなく、そこに住むために土地を買う人だけが土地を動かしている町だ。実需だけが動かす土地は、派手に上がらない代わりに、急に下がりもしない。値段が動かないのは弱さではなく、外の波が届いていないことの表れだ。波が届いていない土地には、区・畑・山林という暮らしの土台が、機能したまま残っている。

国の鑑定の網から外れている原村で中古住宅を買うということは、他人がつけた相場に乗ることではない。国も値段をつけていない土地を、自分の目で値踏みするということだ。その手がかりが、区・畑・山林・水、そして窓の外の森という、暮らしを支える土台そのものになる。

完成された暮らしを買うのではない。自分の暮らしを、この土地の上に設計していく。ホームランを狙う買い方ではない。動かない数字のなかに何が残っているのか、それが見える人にだけ伝わればいい、という程度の話だ。

※本記事の数字は、国土交通省「不動産情報ライブラリ」による(定点観測シリーズの観測データに基づく)。地価は地価調査の同一地点、取引件数・単価・面積は不動産取引価格情報(2020〜2024年)、鑑定対象の有無は地価公示・地価調査の地点情報に基づく。地価調査(9月)と地価公示(3月)は別系統のデータである。

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