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なぜ八ヶ岳のふもとでは、駅からの距離で土地を選ばないのか

  • 7月1日
  • 読了時間: 6分

茅野駅から車で15分も走れば、別荘地でも、田畑に囲まれた集落でも、価格がぐっと下がる土地が出てきます。多くの方が最初は「駅から遠いと不便なのでは」と心配されます。けれど、実際にこの地域で暮らしを始めた方を見ていると、むしろ駅から離れた場所のほうに、納得して根を下ろしていく。これは偶然ではなく、この土地の成り立ちにきちんと理由があります。今回は「駅からの距離」という物差しが、なぜ八ヶ岳西麓ではあまり役に立たないのかを、できるだけ正直にお話しします。

八ヶ岳のふもとでは、駅からの距離で土地の価値が決まらないのはなぜ?

茅野や原村、富士見の暮らしは、駅を中心にではなく、車で動ける範囲のなかで成り立っているからです。だから土地を読むときは「駅から何分か」ではなく、「車で動ける範囲に、畑や山林や、頼り合える人のつながりがそろっているか」を見ます。

東京は、私鉄が線路を敷き、その駅前に住宅と商業を集めることで街をつくってきた、世界的にもかなり特殊な街です。駅前に人もお店も集まるのが当たり前――そう感じるのは、東京の物差しに慣れているからかもしれません。

けれど東京を一歩離れると、日本の多くの地域は1990年代を境に、車を前提とした暮らしへと移っていきました。買い物も、送り迎えも、通院も、車で動く。生活の中心は駅前から、幹線道路沿いや各集落へと、面のように広がっていったのです。

このことは、私の見立てだけではありません。『国道16号線』の著者である柳瀬博一さんは、東京以外の日本では生活の重心が街道沿いに連なっていて、「東京だけが鉄道の街、それ以外は自動車の街」だと指摘しています。どちらが優れているという話ではなく、街の成り立ちが違う、という構造の話です。八ヶ岳西麓は、まさに後者――車で動くことを前提に、暮らしが面で広がっている土地です。

「駅から遠くて地価が安い場所」に、人が集まることがあるって本当?

本当です。そしてそれは、この地域ではむしろ自然なことです。駅前の便利さよりも、車で行ける範囲に畑があること、地域のつながりがあること、標高による涼しさや日当たりがあること――そちらに価値を感じる方が、確かにいらっしゃいます。

茅野市のなかを見ていくと、それがよく分かります。駅にいちばん近い塚原は、行政としては駅前の振興に力が入っている地区ですが、実際には空き家が増え、土地の取引はむしろ少なめです。一方で、そこから車で少し走る玉川・宮川・豊平といった地区は、取引がよく動いています。移住先として選ばれるのは、そこからさらにエコーライン付近へ上がった玉川・宮川・豊平のあたり――駅からはむしろ遠ざかる方向です。

これは印象だけの話ではありません。国土交通省が公表している実際の取引データ(2020〜2025年)で茅野市内の地区別の宅地取引件数を数えると、豊平178件・玉川166件・宮川129件が上位を占めるのに対し、駅にいちばん近い塚原は37件で、市内の主な地区のなかでも下のほうです。駅前の地区で取引が動かず、車で上がった地区で活発に動く――数字にもはっきり表れています。

暮らしの拠点が移っていることは、お店の動きにも表れています。地元のスーパー・デリシアは、1990年より前は駅前にありましたが、その建物は今は老人ホームになり、店舗そのものは路線沿いへと移りました。人の流れが駅前から幹線道路沿いへ移っていった、その象徴のような出来事です。車社会に変わったのに駅前にこだわり続けたお店が静かに姿を消し、広い駐車場を備えた道路沿いのお店が選ばれていく――土地の選び方も、同じ流れのなかにあります。

駅から離れることで、不便なことはないの?

正直に言えば、あります。隠さずお伝えします。車が生活の前提になるので、運転できることがほぼ必須です。冬は朝晩の凍結や、水道管の水抜き、雪かきの段取りが暮らしの一部になります。地域によっては区への加入が前提で、年に何度かの寄り合いや作業の当番も回ってきます。

ただ、これらは「我慢すべき不便」というより、この土地で暮らすことの中身そのものです。冬の備えも、区のつながりも、ひとりで抱え込むものではありません。除雪も、地域の作業も、「みんなで薄く役を分け合う」かたちで回っているところが多く、ひとつだけ役を引き受ければいい、という入り方ができます。送り迎えが前提の暮らしなら、学校までの距離の意味も、通勤動線のなかでとらえ直せます。便利・不便を一方的に決めつけず、ご自身の暮らし方に当てはめて読み替えていただくのが正確だと思います。

鑑定士から見た所見

不動産鑑定士として諏訪地域で地価公示や地価調査を長く担当し、今は自社で買い取って再生する立場でこの地域の土地を毎日見ています。そのうえで申し上げると、八ヶ岳西麓の土地を「駅から何分」で値付けすると、ほぼ必ず読み違えます。

私がこの地域で価格の根拠を説明できるのは、駅からの距離ではなく、その土地が車で動ける範囲のなかで畑・区・山林とどうつながっているか、標高による日当たりや涼しさをどれだけ持っているか――そこを現地で一筆ずつ見ているからです。駅にいちばん近い塚原で取引が動かず、車で少し上がった玉川・宮川・豊平のほうに移住の相談が集まるのは、まさにこの物差しの違いが表れた結果です。これは机の上の地図やデータだけでは埋まりません。実際に斜面に立って、日の差し方や風の抜け方、雪の残り方を確かめてはじめて分かることが、この土地には多いのです。

駅前を中心に考える物差しは、東京の物差しです。それが間違いというのではなく、八ヶ岳西麓には別の物差しが要る、というだけのことです。

こんな方に向いています

・車での移動が前提でも構わない、むしろそのほうが暮らしの自由度が増すと感じる方

・駅前の便利さよりも、畑や森が近い暮らしに惹かれる方

・地域の輪に、ひとつぶんの役なら気持ちよく加わってみたいと思える方

・完成された住宅地ではなく、自分の暮らしを少しずつ設計していく余白を楽しめる方

まとめ

八ヶ岳のふもとで土地を選ぶときは、「駅からの距離」をいったん物差しから外してみてください。この土地の暮らしは、駅を中心にではなく、車で動ける範囲のなかで――畑があり、地域のつながりがあり、森が近いという三つの層が重なって――成り立っています。駅から離れた場所に納得して根を下ろす方が多いのは、便利さを捨てたのではなく、別の豊かさを選んでいるからです。

どの土地がご自身の暮らし方に合うかは、現地に立ってみないと分からないことがたくさんあります。気になる土地があれば、一緒に見て、一緒に考えていけたらと思います。お気軽にご相談ください。

出典:国土交通省「不動産情報ライブラリ」不動産取引価格情報(2020年第1四半期〜2025年)をもとに、茅野市内の地区別・宅地(土地および土地建物)取引件数を自社集計。

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