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「東京にはなんでもあるの?」と子どもに聞かれて、うまく答えられなかった

4 日前
読了時間: 12分

先日、上の子に聞かれました。

「東京にはなんでもあるの?」

私は反射的に「そんなにないよ」と答えてしまいました。答えてから、言葉が足りないと思いました。東京にはたしかに、なんでもあります。私は東京で十年働いて、そのあいだ、欲しいものが手に入らなくて困ったことはほとんどありません。

足りなかったのは「ある」の中身のほうです。東京にあるのは、誰かが作って、運んで、値札をつけて、買える状態に整えてくれた物です。ただ、その物を作っている場所は、東京の外にあります。

ふだんこの違いは意識されません。お金と物が問題なく交換できるからです。ところがこの数年で、それが何度か、はっきり見えました。

東京には本当に「なんでもある」のですか

あります。ただし正確には、「お金と交換できる状態に整えられた物が、世界中から集まっている」という意味です。

集める力という点で、東京は日本でいちばん強い場所です。米も野菜も燃料も、産地から離れているのに産地より品数が多い。これは弱点ではなく、都市が長い時間をかけて作り上げた性能です。私はそれを軽く見ていません。

ただし、この性能はひとつの前提に乗っています。お金を出せば、誰かが作って運んでくれるという前提です。ふだんは空気のように安定しているので、誰も確かめません。私も東京にいたころは確かめませんでした。

二年前、お米が買えなくなったのを覚えていますか

覚えている方が多いと思います。あれが、多くの人にとって最初の「お金があっても買えない」でした。

2024年の夏から秋にかけて、都市部のスーパーの棚から米が消えました。一家族一点までの購入制限が広がり、翌年の春には政府が備蓄米を放出しました。値段の問題ではありません。払う気があっても、棚に無かった。

あの時期、茅野では、そこまで困りませんでした。まったく影響がなかったとは言いません。ただ、「買えない」という感覚にはならなかった。これは自慢ではなく、単に産地の中に住んでいるという位置の話です。同じ国の中で、同じ通貨を持っていて、それでも手元に届く順番が違った。この五年でいちばんはっきり見た場面として覚えています。

そして今年は豊作でした。農林水産省の月次報告によると、2026年4月末の民間在庫量は249万玄米トンで、直近10年で最も高い水準です。ところが令和7年産米の年産平均価格は60kgあたり35,812円、前年比プラス42%

物は戻ったのに、値段は戻らなかった。「物が足りない」と「お金の値打ちが下がる」は、同じ顔で来るとは限りません。

こういうことは増えるのか。増えるかどうかは私には分かりません。予想はしない主義です。分かるのは、この五年でこの形が二回あったということだけです——米と、次に書く住宅資材。二回とも、太い一本が細ったときに起きています。

茅野市豊平の現役の田んぼ。周囲も水を張った田が続く
茅野市豊平。周りも現役の田。産地の中に住むというのは、こういう風景の中にいるということ

住宅の資材でも、同じことが起きたのですか

起きました。2026年春、こちらは値段が上がったのではなく、順番が市場の外側で決まりました。

中東の紛争でホルムズ海峡が事実上封鎖され、ナフサ——石油から作る樹脂の原料——の流通が細りました。日本の住宅は、いま樹脂でできている部分がとても多い。断熱材、防水シート、シーリング、塩ビ配管、浄化槽のFRP。どれもナフサの下流です。四月には大手の住宅設備メーカーが受注を止め、納期回答の停止が連鎖しました。当社の再生工事でも、屋根材と防水材が読めない時期がありました。

忘れられないのは、その少し前に石油製品を医療用途へ優先的に回す方針が示されたことです。この瞬間に、建築資材の調達順位は市場の外側で決まりました。

払える人から届くのではなく、決められた順に届く。

米のときは「棚に無い」、今回は「順番が後」。似ていますが少し違います。この五年の他の出来事——燃料高、物流の混乱、物価高——は全部「高くなった」で、お金を多めに出せば遅れても届いた。米と資材の二回だけが、そうではありませんでした。

念のため書いておきます。この状態は戻ります。六月には受注が再開し、流通は落ち着いてきています。米も豊作に戻りました。不安を売るつもりはありません。

見ておきたいのはもっと地味なことです。同じ出来事が起きたとき、住んでいる場所によって、手元に物が届く順番が違った。これは値段の話ではなく、順番の話です。

電気は運べます。水は運べません

だから水だけは、どこまで行っても地元のものです。

AIのデータセンターが世界中で建ち、電気と、冷却に使う水の需要が増えています。私はAIを毎日使っているので、これは他人事の告発ではなく、自分も乗っている船の話です。そのうえで構造だけ見ると、電気は運べるので、産地の近さが直接ものを言うわけではありません。ものを言うのは、増えすぎたときに順番が市場の外側で決まるという、春に一度見た形のほうです。

水は違います。ペットボトルの水は運べますが、暮らしと農業が使う量の水は運べない。

だから土地を見るとき、私は水を三つに分けます。入る(上水)・使う・出す(汚水と雨水)。入る側はどこも電気に依存していて差がつきません。差がつくのは出す側——重力で下るのか、機械で押すのか。平らな土地ではポンプが押しています。これは平らな場所に大勢が住むための合理であって、劣った選択ではありません。ただ、合理の代償として経路が一本になります。傾いた土地では、電気が止まっても水は勝手に下っていきます。

「災害に強い土地」とは言いません。この地域にも土砂も凍結も孤立もあります。書けるのは、壊れたときに自分で回せる経路があるかだけです。

山林の中を流れる沢。傾斜に沿って水が下っていく
水は、傾いた土地では電気が止まっても勝手に下っていく

八ヶ岳西麓では、何が「売り場の前」で動いていますか

米・薪・苗です。店に並ぶ前に、集落の中でかなりの量が動いています。

統計ではなく現地での観察としてお読みください。

米。 秋、直売所に並ぶ前の段階で、作った人の周りにかなりの量が回ります。親戚、隣家、区の付き合い、以前手伝った人。買うというより「もらう・分けてもらう・交換する」に近い。お金が動く場合も、値段は市場ではなく関係で決まります。二年前、都市部の棚が空になっていたとき、この地域ではこの経路のほうが先に動いていました。 さきほど「そこまで困らなかった」と書いたのは、こういう意味です。

薪。 伐採の現場では、玉切りにした材が「持ってっていいよ」で片づいていきます。運ぶ手間を出せる人に材が流れる。一冬に使う薪は、断熱と暖房の使い方にもよりますが、薪ストーブ主体ならおおむね3〜5立方メートル前後が、この地域で私が見てきた範囲での目安です(現地観察ベース)。買うか、山から回してもらうかで、冬の固定費はかなり変わります。

苗と種。 春、余った苗は捨てられずに隣へ回ります。標高900〜1500mの畑では平地向けの品種がうまくいかないことがあるので、これは苗そのものより情報の受け渡しに近い。

三つに共通しているのは、市場に出る前に行き先が決まっているという一点です。

八ヶ岳西麓の山林の伐採現場。玉切りにした材が積まれている
伐採の現場。玉切りにした材は「持ってっていいよ」で片づいていく

新鮮な野菜は、お金で買えますか

買えます。ただし「収穫してから何時間目か」だけは、お金では動かせません。

ここは、この記事でいちばん平和な話です。

原村は、夏場のセロリ(地元では「セルリー」と呼びます)の生産量が日本一です。栽培されているのは標高およそ900mから1100mのエリア。昼夜の気温差が大きいので、野菜が糖分を蓄えて甘く育ちます(原村公式サイト)。ほかにブロッコリー、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、トウモロコシ、トマト。

同じセロリが、東京のスーパーにも並びます。値段もそれほど変わりません。違うのは時間だけです。朝に穫って、その日の昼に食べる。夏のトウモロコシは、穫ってから鍋に入れるまでの時間で甘さが変わります。この差は輸送を速くしても縮まりません。距離があるかぎり、時間がかかるからです。

さらに、直売所に並ぶ前の段階があります。畑の隣を歩いていて「持ってく?」と言われる。作りすぎたキュウリが玄関先に置いてある。これは値段の話ですらありません。

朝採りのセロリは、東京では売っていません。産地でしか成立しない商品だからです。

「お金で買えないもの」というと重く聞こえますが、実際にいちばん多く経験するのは、この、朝の野菜のほうです。

八ヶ岳西麓の畑での収穫。標高900〜1100mの高原野菜
朝に穫って、その日の昼に食べる。この時間差だけは、輸送を速くしても縮まらない

それは「田舎は物価が安い」ということですか

違います。順番の話であって、値段の話ではありません。

この地域の暮らしが都市より安くつくとは限りません。車は世帯人数分いります。冬の暖房費はかかります。浄化槽の保守点検と法定検査、井戸のポンプ交換と水質検査は、下水道使用料と水道料金の代わりに乗ってきます。固定費は下がるのではなく、振り替わるというのが実際のところです。米が42%上がったことからも分かるとおり、産地に住んでいても値段からは逃げられません。

変わるのは金額ではなく、入手経路の本数です。都市では、ほとんどの物の入手経路は「買う」の一本。太くて速くて確実な一本です。この地域では、そこに「回してもらう」という細い経路が一本足せる。細いので、これで暮らせるわけではありません。ただ、太い一本が細ったときに、ゼロにならない。

査定で山林や農地を見に行くとき、値段と同じくらい気にしているのが、この二本目です。畑がついているか、薪の出る山に手が届くか、水が本管と井戸の両方を持てるか。二本目がある土地は、片方が落ちても何かが残ります。片方に寄せきった土地は、その片方が落ちたときに何も残りません。資産価値の話というより、暮らしが破綻しにくいかどうかの話です。

土地を買えば、その順番に入れるのですか

入れません。ここがこの話のいちばん面白いところで、いちばん厳しいところです。

順番に入るのは、区の作業に出て、道普請の朝に立って、冬を何回か越してからです。何年、と言い切れる数字はありません。ただ、二、三年住んでいる方と、十年住んでいる方とでは、秋に回ってくる物の量が違います。

これを「面倒だ」と感じるか、「その面倒が経路そのものだ」と読むかで、この地域が向くかどうかが分かれます。

そして、外と切り離れて自給する暮らしは、この地域でも成立しません。 井戸を掘れば入る側は自前になりますが、出す側——雨水と汚水の放流先は、必ず自分の敷地の外にあります。側溝は区が、水路は水利組合が管理しています。道も同じで、冬に道が使えるのは、誰かが除雪しているからです。

水も道も冬も、隣と一緒でないと回りません。

土地選びでは、具体的に何を見ればいいのですか

「作る力に手が届くか」を、畑・山・水・区・冬の五つで見ます。

  • :面積(副食をまかなう規模か、主食まで狙うか)/日射の向きと時間/農地なら転用や貸借の可否

  • :薪の出どころに手が届くか。自分の山林、財産区の有無、伐採現場までの距離と運搬経路

  • :入る側(本管か井戸か、井戸なら実績深度)/出す側が重力か動力か/放流先の管理者は区か水利組合か/二本目を足す余地

  • :区に入れるか、役が回る仕組みがあるか、集まりの頻度。近年はどの区も簡素化が進んでいます

  • :凍結深度と埋設深さ(自治体の基準を必ず確認)/水抜きの要否/除雪の動線と、道路までの距離

この記事が向かない方

  • 人と関わらずに暮らしたい方には向きません。ここで書いた経路は全部、人を経由します。区に入らずに「回してもらう」側だけを受け取ることはできません。

  • 買い込んで閉じるための土地をお探しの方にも向きません。経路を一本にして自分の中に囲うやり方では、水も道も冬も回りません。

  • 投資・転売・節税のみを目的とした取得のご相談は、お受けしていません。

  • 当社が扱うのは茅野市・原村・富士見町の三町村のみです。エリアを越えて動くことはありません。

  • 太陽光発電設備・大型蓄電池・宿泊事業用(ペンション・ホテル等)の物件は扱いません。固定費が高く人手に依存する形は、「経路を増やす」暮らしと逆方向だからです。

よくある質問

Q. 移住しないと、この経路には入れませんか。 A. 二地域居住でも入っている方はいます。条件は住民票ではなく、区の作業に出られるかどうかです。年に数回でも出続けている方には回ります。
Q. 農地は買えますか。 A. 農地法の許可が要るため、宅地と同じようには買えません。ただし、住宅とセットで一体で読むと道が開くことがあります。当社は農地転用・農振除外の手続きを自社で進めています。
Q. 薪は結局、買ったほうが安くありませんか。 A. 時間の値段をどう置くかによります。買えば確実で速い。山から回すと手間と保管場所が要ります。両方やっている方がいちばん多いです。

子どもへの答え直し

あの日の答えを、いまならこう言い直します。

東京にはなんでもある。ただしそれは、作って運んで並べてくれる人が世界中にいるからで、その人たちはここからは遠い。ここには物は少ないけれど、作っている人が近い

どちらが上ということではありません。遠いか、近いかの違いです。遠いほうを選ぶ理由も、近いほうを選ぶ理由も、それぞれちゃんとあります。

ただ、この数年で何度か、遠いことがそのまま「順番が後になる」に変わりました。米のときも、資材のときも、すぐに戻りました。たぶんまた起きて、また戻ります。行ったり来たりするのだと思います。

その行ったり来たりの中で、私が扱っているのは「近い」ほうの土地です。畑と山と水と区がまだ揃って残っている場所を探して、買い取って、暮らしが成立する形に整えて、次の方に渡す。売ろうとしているのは物件というより、入手経路が一本ではない暮らしの構造のほうです。

朝採りのセロリが食べられるのは、そのいちばん小さくて、分かりやすいご褒美だと思っています。

土地の話でも、区の話でも、冬の話でもかまいません。一緒に考えていけたらと思います。

八ヶ岳西麓の自宅から見た朝の雲海と山並み
家から見た朝の雲海

出典・数値の扱いについて

  • 米の民間在庫量(2026年4月末 249万玄米トン・直近10年で最高水準)、令和7年産米の年産平均価格(60kgあたり35,812円・前年比+42%):農林水産省 米に関するマンスリーレポート(2026年6月号)

  • 原村の特産品・セロリ夏場生産量日本一・栽培標高900〜1100m:原村公式サイト

  • 2024年の米の品薄と2026年春の資材流通の経過:報道および当社の実際の経験による

本文中の「薪3〜5立方メートル」「米・苗の流通」「茅野での実感」は、当社が三町村で行ってきた査定・買取・現地観察と、日々の暮らしに基づく観察ベースの記述であり、統計データではありません。凍結深度・埋設深さ・農地転用の可否は物件ごと・自治体ごとに異なるため、必ず個別に確認してください。

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